こんにちは 行政書士わたなべ事務所の渡辺晋太郎です。
ご家族に不幸があり、相続手続きを進める中で、「相続人の一人がまだ未成年者だった」というケースに直面することがあります。
未成年者がいる相続は、ただでさえ複雑な手続きが一気に難しくなります。「親権者が代わりに手続きすればいいのでは?」と思われるかもしれませんが、実は法律で厳格に定められたルールがあり、これを守らないと、せっかく行った遺産分割協議が無効になってしまうリスクがあるのです。
今回は、相続人に未成年者がいる場合に、知っておくべき手続きを、わかりやすく解説します。
なぜ未成年者は特別な手続きが必要なのか?
未成年者も法的に立派な相続人であり、遺産分割協議に参加する権利と義務があります。しかし、民法上、未成年者は単独で有効な法律行為(遺産分割協議などの契約行為)を行うことができません。
そこで、未成年者の代わりに親権者(多くは親)が代理人となりますが、ここで大きな問題が発生します。
「利益相反」とは?
親権者もまた、未成年者と同じく相続人であることがほとんどです。
この場合、親権者(親)が未成年者(子)を代理して遺産分割協議に参加すると、親は「自分の取り分を増やしたい」という立場に、子に対しては「子の利益を守る」という立場に立たざるを得ず、利害が対立してしまいます。これを利益相反行為と呼びます。
親が子の代理人として協議に参加することは、民法第826条により厳しく禁じられています。この禁止事項を回避するために、家庭裁判所への特別な手続きが必要となるのです。
未成年者がいる場合の遺産分割協議の手続き
利益相反を回避し、未成年者が参加する遺産分割協議を有効に進めるには、以下の手順を踏む必要があります。
①:特別代理人選任の申立て
未成年者を代理するために、親権者以外の第三者を「特別代理人」として家庭裁判所に選任してもらうよう申立てを行います。
- 誰が申立人になるか?:親権者(父または母)
- 申立先:未成年者の住所地の家庭裁判所
この申立ての際、「遺産分割協議書の案」(特別代理人が承認するであろう内容)を添付することが一般的です。裁判所は、この案の内容が未成年者の利益を不当に害していないかを審査します。
②:特別代理人の選任
申立てが認められると、家庭裁判所が特別代理人を選任します。
- 特別代理人になれる人
親族(祖父母、叔父叔母など)や、弁護士・司法書士などの専門家が候補者となります。未成年者の利益を守れる人として、家庭裁判所が適任者を判断します。 - 重要
親権者は特別代理人の候補者を推薦できますが、最終的な決定権は裁判所にあります。
③:特別代理人による遺産分割協議への参加
特別代理人が選任されて初めて、遺産分割協議を行うことができます。
- 特別代理人は、事前に提出した遺産分割協議書の案に基づいて協議に参加します。
- 協議がまとまれば、特別代理人が未成年者に代わって署名・捺印し、遺産分割協議書が完成します。
【注意】 特別代理人の権限は、特定の遺産分割協議のみに限定されています。この協議が終了すれば、特別代理人の任務は終了します。
手続きの注意点
未成年者がいる相続手続きには、行政書士の目線から見ても、特に注意が必要な落とし穴がいくつかあります。
①:未成年者の取り分をゼロにするのは原則NG
「未成年者だから、今回は取り分をゼロにして、将来親が面倒を見る」という内容の遺産分割協議は、原則として認められません。
未成年者の法定相続分(権利)を不当に侵害すると、裁判所は「未成年者の利益を害する」と判断し、特別代理人の選任を認めない可能性が高いです。
②:親権者が複数いる場合の「連名」での代理
例えば、父が亡くなり、母と未成年の子二人が相続人となった場合、母は未成年者二人の親権者です。
この場合も、母が二人を代理することは利益相反行為に当たる可能性があります。母の立場(自分の取り分を増やす)と、子Aと子Bの利益(兄弟間での取り分を争う可能性)が衝突するためです。
この場合、子Aと子Bのそれぞれに特別代理人を選任するか、子Aの特別代理人に母がなり、子Bの特別代理人に第三者がなるなど、それぞれの特別代理人の役割分担が必要になる場合があります。
③:一度選任されたら手続きは厳格
特別代理人が選任された後で、当初裁判所に提出した遺産分割協議書の案から逸脱するような内容で分割協議を締結すると、その協議は無効になるリスクがあります。
特別代理人には、協議書の案を守り、厳格にその職務を行うことが求められます。
まとめ
相続人に未成年者がいる場合、家庭裁判所の手続きが必須となり、書類の作成や法的な判断が非常に複雑になります。
ただし、被相続人が有効な遺言書を作成し、財産の分け方を明確に指定している場合は、原則として遺産分割協議は不要になります。
また、特別代理人の選任が不要になるため、煩雑な手続きを回避でき、残された家族の負担が大幅に軽減されます。
ですので、相続人に未成年者がいる場合は、残された家族のために遺言書を作成しておくことを強くお勧めします。
未成年者の大切な権利を守り、将来にわたり争いの火種を残さない、公正で円満な相続手続きをスムーズに完了させるために、ぜひ一度ご相談ください。
初回相談は無料です。お気軽にご連絡ください。
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