こんにちは 行政書士わたなべ事務所の渡辺晋太郎です。
日本は世界でも類を見ないスピードで高齢化が進んでいるため、認知症患者の増加は深刻な社会問題の一つとされています。相続の場面においても手続きをスムーズに進めることができない要因の一つになっています。
認知症の相続人がいると、なぜ相続手続きをスムーズに進めることができなくなるのかという要因とその場合の相続手続きの進め方と対策についてを解説します。
なぜ認知症だと相続手続きが止まるのか
相続が発生し、遺言書がない場合、相続人全員で遺産分割協議を行い、誰がどの財産をどれだけ受け取るかを決めなければなりません。しかし、相続人の一人が認知症などで判断能力が不十分な状態にあると、この協議をそのまま進めることはできません。
遺産分割協議は、法的な権利や義務に関する「法律行為」にあたります。民法上、法律行為には内容を理解し、自分の意思を決定できる能力(意思能力・判断能力)が必要です。判断能力が不十分な方が参加した協議やその合意は、法的に無効となる可能性があり、後々「争族」に発展する大きなリスクをはらんでいます。
このリスクを回避し、適法かつ円満に相続手続きを進めるには、「事前の対策」と「相続発生後の正式な手続き」の両方が重要になります。
相続発生後の「正式な手続き」:成年後見制度の利用
もし現在すでに相続が発生しており、認知症の相続人が判断能力を欠いている場合、他の相続人が勝手に代理で協議を進めることはできません。この場合、家庭裁判所に成年後見制度の利用を申し立てる必要があります。
成年後見制度とは?
認知症などで判断能力が低下した方を法的に保護・支援するための制度です。選任された成年後見人は、ご本人に代わって財産管理や法律行為(遺産分割協議への参加など)を行う権限を持ちます。
手順と注意点
- 家庭裁判所への申立て
ご本人の住所地を管轄する家庭裁判所に、申立書と必要書類(医師の診断書、財産目録など)を提出します。 - 審理・後見人の選任
申立てから後見人が選任されるまでに、通常数ヶ月かかります。この間、遺産分割協議はストップします。 - 【最重要】特別代理人の選任
後見人自身も同じ遺産の相続人である場合、後見人とご本人の間で利益相反(利害の対立)が発生します。この場合、後見人はご本人を代理できません。別途、家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立て、この特別代理人がご本人のために協議に参加することになります。
成年後見制度を利用すれば、時間はかかりますが、法的に問題のない形で遺産分割協議を完了させることができます。
しかし、成年後見人選任の手続きには手間と時間がかかるので、あとで落ち着いたときに進めよう..となる場合もあるかもしれません。もし、その間に次の相続が発生すると相続人が増え、相続手続きがさらに複雑化します。
また、相続税の申告には期限がありますし、遺産分割協議がまとまらないと相続財産は相続人での共有となります。不動産が共有になると売却したくてもできないこともあり、やっかいです。
そうならないためにもおすすめの対策をご案内します。
【最善の対策】相続発生「前」の準備
最も望ましいのは、被相続人(財産を残す人)や、まだ判断能力のある相続人自身が、将来に備えて対策を講じることです。
対策A:遺言書の作成(最もシンプルで強力な方法)
認知症の相続人がいてもいなくても、遺言書は相続手続きを円滑にする最強のツールです。
- 効果
遺言書で財産の分け方が具体的に指定されていれば、原則として遺産分割協議は不要になります。これにより、認知症の相続人による協議参加の問題そのものが解消されます。 - 方法
公正証書遺言が最も安全かつ確実です。公証役場で公証人に作成してもらうことで、形式不備や偽造のリスクがなく、家庭裁判所での検認手続きも不要になります。
対策B:家族信託(積極的な財産管理を目的とする場合)
認知症による財産凍結のリスクは、遺産分割協議だけではありません。生活費の引き出しや不動産の売却など、日々の財産管理もできなくなります。これを包括的に解決するのが家族信託です。
- 仕組み
被相続人(財産所有者)が元気なうちに、信頼できる家族(受託者)との間で信託契約を結び、財産の名義を受託者に移転します。 - 効果
財産の名義が受託者になるため、たとえ被相続人が認知症になっても、受託者が契約内容に従って財産を管理・運用できます。また、信託契約の中で「二次相続以降の承継先」まで決めておくことができるため、将来の遺産分割協議を不要にすることも可能です。
まとめ
認知症の相続人がいる場合の相続は、法的側面が複雑に絡み合います。手続きの遅延は、相続税の申告期限(相続開始から10ヶ月)に間に合わない、という税務上の大きな問題を引き起こす可能性もあります。
大切なのは、「まだ大丈夫」と先延ばしにせず、早い段階で家族間の話し合いの場を持つことです。その上で、家族の状況や財産規模に応じて、行政書士などといった相続の専門家に相談し、最適な対策(遺言書、家族信託)を実行に移すことが、円満な相続と家族の将来の安心を守るための鍵となります。
ご家族の状況や将来の可能性を一緒に考え、ご自身の思いを完璧に形にするお手伝いをさせていただきます。
初回相談は無料です。お気軽にご連絡ください。
詳しくは行政書士わたなべ事務所まで



