家族信託の「要」!受託者の義務と責任を行政書士が解説

家族信託

こんにちは 行政書士わたなべ事務所の渡辺晋太郎です。

家族信託は、ご自身の財産を特定の目的に沿って、信頼できる家族に託すことで、財産管理や将来の相続を円滑に進めるための強力なツールです。この家族信託において、最も重要な役割を担うのが「受託者」です。受託者は、信託された財産を管理・運用・処分する権限を持つ一方で、非常に重い義務と責任を負っています。

今回は、家族信託における受託者の義務と責任について詳しく解説します。受託者になられる方、あるいは受託者を選任しようとお考えの委託者の方にとって、ご自身の役割や信託の安定的な運営を理解する一助となれば幸いです。

受託者とは? その役割と重要性

家族信託における受託者は、委託者から信託された財産について、信託契約で定められた目的に従って、受益者のために管理・運用・処分を行う、いわば「財産管理人」です。

受託者は、形式的には信託された財産の「所有者」となりますが、それはあくまで形式上のことであり、実質的な利益を受けるのは受益者です。受託者は、自分の利益のために財産を扱うことはできず、常に受益者の利益を最優先に行動することが求められます。

受託者は、家族信託がその目的を達成できるかどうかの鍵を握る存在であり、その役割は非常に重要です。

受託者の主な義務と責任

信託法では、受託者に対して様々な義務を課しています。これらの義務は、受託者が受益者のために忠実に職務を遂行し、信託財産が適切に管理されることを保証するためのものです。

忠実義務(信託法第28条)

忠実義務は、受託者の義務の中でも最も基本的なものであり、「受益者のため、忠実に信託事務を処理しなければならない」 と定められています。これは、受託者が自分の利益や第三者の利益のために行動するのではなく、常に受益者の利益を最優先に考え、誠実に職務を遂行することを意味します。

例えば、信託財産である不動産を売却する際、受託者は最も高値で売却できる方法を検討し、受益者の利益を最大化するよう努めなければなりません。もし、受託者が自分の親族に安値で売却するなど、自己の利益を図る行為を行った場合、忠実義務違反となります。

善管注意義務(信託法第29条)

善管注意義務とは、「善良な管理者の注意をもって、信託事務を処理しなければならない」 という義務です。これは、受託者が自分の財産を管理するのと同じくらいの注意ではなく、「職業専門家として要求される一般的な注意義務」、つまり社会通念上、一般的に要求される注意義務をもって信託財産を管理しなければならない、という意味合いが強いです。

例えば、信託されたアパートの修繕を怠り、老朽化を進めてしまった場合や、入居者募集を適切に行わなかったために空室期間が長引いた場合などは、善管注意義務違反に問われる可能性があります。常に、信託財産がその価値を維持・向上できるよう、適切な管理を心がける必要があります。

分別管理義務(信託法第34条)

分別管理義務とは、「信託財産と自己の固有財産とを分別して管理しなければならない」 という義務です。これは、信託財産と受託者個人の財産が混同してしまうことを防ぎ、信託財産の独立性を保つために非常に重要です。

例えば、信託された預金口座と受託者個人の預金口座を分けて管理する、不動産の登記名義を「受託者〇〇(氏名)信託」といった形で信託財産であることが分かるようにする、といった対応が必要です。もし分別管理を怠ると、受託者の債権者が信託財産に強制執行をかけたり、信託財産の正確な状況が分からなくなったりするリスクが生じます。

帳簿作成等の義務(信託法第37条)

受託者は、「信託事務に関する帳簿その他の書類を作成し、これを保存しなければならない」 義務があります。これは、信託財産の収支や状況を明確にするために不可欠です。

家賃収入や修繕費、固定資産税など、信託財産に関する全ての金銭の出入りを正確に記録し、関係書類を保管しておく必要があります。受益者からの情報開示請求があった場合には、速やかにこれに応じなければなりません。

報告義務・情報開示義務(信託法第36条、第37条)

受託者は、受益者に対して、信託財産の管理状況や収支について定期的に報告する義務があります。信託契約において報告の頻度や内容を定めることが一般的です。

また、受益者から信託事務に関する帳簿や書類の閲覧、謄写の請求があった場合には、正当な理由がない限り、これを拒むことはできません。透明性の高い運営を行うことで、受益者からの信頼を得ることができます。

その他の義務

上記の他にも、信託法には受託者に対する様々な義務が定められています。

  • 利益相反行為の禁止(信託法第31条)
    受託者が、受益者の利益と相反する行為(例えば、信託財産を自己の関連会社に不当に安く売却するなど)を行うことは原則として禁止されています。
  • 公平義務(信託法第30条)
    受益者が複数いる場合、受託者は特定の受益者を不当に優遇したり、差別したりすることなく、公平に信託事務を処理しなければなりません。
  • 受託者の辞任・解任
    受託者が義務違反をした場合や、信託事務を適切に遂行できない状況になった場合には、受託者は辞任したり、受益者や裁判所によって解任されたりする可能性があります。

義務違反があった場合のリスク

受託者がこれらの義務に違反した場合、以下のようなリスクが生じる可能性があります。

  • 損害賠償責任
    義務違反によって受益者に損害を与えた場合、受託者は受益者に対して損害賠償責任を負うことになります。
  • 信託財産の原状回復
    不適切に処分された信託財産については、原状回復を求められることがあります。
  • 受託者の解任
    重大な義務違反があった場合、受益者からの請求や裁判所の判断によって、受託者の地位を失うことがあります。

これらのリスクを避けるためにも、受託者は自身の義務と責任を十分に理解し、常に誠実かつ慎重に職務を遂行することが求められます。

受託者となるにあたって

受託者となることを依頼された場合、その重い責任を理解した上で引き受ける必要があります。
責任と負担が大きいことから、受託者への報酬を設定したり、受託者を監督する信託監督人を設定することもできます。

  • 信託契約の内容を十分に理解する
    自分がどのような義務を負い、どのような権限を持つのか、契約書を熟読し、不明な点は委託者や専門家と確認しましょう。
  • 信託財産の現状を把握する
    不動産であれば登記簿や権利関係、預金であれば残高など、信託される財産の詳細を把握しておくことが重要です。
  • コミュニケーションを密にする
    定期的に受益者や他の関係者と情報共有を行い、透明性の高い運営を心がけましょう。

まとめ

家族信託は、財産管理の柔軟性と相続対策の有効性において、非常に優れた制度です。しかし、その根幹を支えるのは、受託者の適切な職務遂行に他なりません。受託者は、忠実義務、善管注意義務、分別管理義務をはじめとする様々な法的義務を負い、その義務を怠れば重大な責任を問われる可能性があります。

受託者となる方は、その責任の重さを認識し、十分な準備と覚悟を持って職務に臨むことが重要です。また、委託者の方は、受託者を選任する際には、その方の責任感や管理能力を慎重に見極める必要があります。

当事務所では、家族信託の設計段階から、受託者の義務や責任について十分に説明し、円滑な信託運営のためのサポートを提供しています。受託者の皆様が安心して職務を遂行できるよう、また、委託者の皆様が安心して財産を託せるよう、全力でお手伝いさせていただきます。家族信託に関するご相談は、
家族信託専門士である行政書士がお話をお伺いします。

初回の相談は無料ですので、お気軽にご連絡ください。
詳しくは行政書士わたなべ事務所まで

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