不動産の「共有問題」を家族信託で解決する秘訣を行政書士が解説

家族信託

こんにちは 行政書士わたなべ事務所の渡辺晋太郎です。

ご実家や相続した不動産が、きょうだいや親族との「共有名義」になっているという方は少なくありません。しかし、この「共有」という状態は、一見問題なさそうに見えて、実は将来的に大きなトラブルの種となる可能性があります。

「売却したいのに、他の共有者が反対する」
「賃貸に出したいけど、意見がまとまらない」
「共有者の一人が認知症になって、何も決められなくなった」
このような「共有不動産問題」で頭を抱えている方は、非常に多いのが現状です。

今回は、この厄介な不動産の共有問題を解決するための有効な手段として、近年注目を集めている「家族信託」について、解説していきます。


なぜ不動産の共有は問題になりやすいのか?

不動産が共有名義である場合、以下のような問題が発生しやすくなります。

意思決定の困難さ

  • 売却・建て替え
    不動産の売却や建て替え、大規模な修繕などは「変更行為」にあたり、共有者全員の同意が必要です(民法251条)。たった一人でも反対者がいれば、これらの重要な決定を進めることができません。
  • 賃貸
    不動産を賃貸に出すなど「管理行為」にあたる場合も、共有持分の過半数の同意が必要です(民法252条)。共有者が均等な持分を持っていたり、人数が多かったりすると、意見がまとまらないケースが頻発します。

共有者の状況変化によるリスク

  • 認知症
    共有者の一人が認知症などで判断能力が低下した場合、その人の同意を得ることができなくなり、結果として不動産の管理や処分が「塩漬け」になってしまいます。成年後見制度の利用も考えられますが、手続きに時間や費用がかかる上、後見人は家庭裁判所の監督を受けるため、必ずしも他の共有者の意向通りに動けるわけではありません。
  • 死亡による共有者の増加
    共有者の誰かが亡くなると、その人の持分はさらにその相続人たちに引き継がれ、共有者がネズミ算式に増えていく可能性があります。例えば、兄弟3人で共有していた不動産が、その兄弟それぞれに子供が2人ずついた場合、次の世代では最大6人の共有者になることもあり、ますます意思決定が困難になります。
  • 連絡不能・所在不明
    相続によって共有者が増えるうちに、連絡が取れない、あるいはそもそも誰が共有者なのか分からない、といった状況になることも少なくありません。

家族信託が共有不動産問題に有効な理由

こうした共有不動産の悩みを解決する有効な手段として「家族信託」が注目されています。家族信託とは、特定の財産(ここでは不動産)を信頼できる家族に託し、その家族が「信託契約」に基づいてその財産を管理・運用・処分する仕組みです。

共有不動産に家族信託を活用する主なメリットは以下の通りです。

管理・処分権限の一本化

共有者全員(または一部の共有者)が「委託者」となり、不動産の管理・処分権限を「受託者」(通常は共有者のうちの信頼できる一人、または第三者)に集約させることができます。
これにより、本来共有者全員の同意が必要な売却や大規模修繕なども、受託者の判断のみで実行できるようになります。共有者全員の実印や印鑑証明を集める手間が省け、迅速な意思決定が可能になります。

共有者の判断能力低下・死亡の影響回避

家族信託を設定しておけば、信託契約後に共有者の一人が認知症になっても、受託者が管理・処分権限を持っているため、不動産が凍結する心配がありません。
また、信託契約で「受益権」(信託財産から得られる利益を受ける権利)の承継者を定めておくことで、共有者の一人が死亡しても、その持分が相続によって分散することなく、信託契約で定めた受益者にスムーズに承継されます。これにより、将来の共有者の増加を防ぎ、不動産の流動性を維持できます。

柔軟な利益分配

受益権を各共有者の持分に応じて設定することで、不動産を売却した代金や、賃貸に出した場合の家賃収入などを、これまでの共有持分に応じて公平に分配することができます。不動産の所有権は受託者に移りますが、経済的な利益は引き続き共有者(受益者)が享受できるため、不公平感が生まれにくいです。

「信託口口座」による資金管理

受託者は信託財産と固有財産を明確に分離するため、「信託口口座」を開設して管理します。これにより、不動産から得られる収益や、修繕費などの支出を透明性高く管理でき、他の共有者(受益者)に対する説明責任も果たしやすくなります。

家族信託活用の具体例

例えば、兄弟3人が実家を共有名義で相続したケースを考えてみましょう。

  • 現状
    兄弟3人それぞれが3分の1ずつ持分を所有。長男は遠方に住み、次男は多忙で管理に関われず、三男が実家に住み、細々とした管理をしている。将来的に実家を売却したいと考えているが、誰かが認知症になったり、意見が割れたりする可能性に不安を感じている。
  • 家族信託活用後
    兄弟3人全員を「委託者兼当初受益者」、三男を「受託者」とする信託契約を締結します。不動産の登記名義は三男に変更し、兄弟3人のために不動産を管理・運用・処分する権限を持ちます。
    売却する場合も、三男の判断で進められます。売却代金は信託財産となり、信託契約に基づいて兄弟3人に持分に応じて分配されます。
    もし兄弟の誰かが認知症になったり、亡くなったりしても、三男の管理・処分権限は継続するため、不動産が塩漬けになることはありません。

このように、家族信託を活用することで、複数の共有者が抱える意思決定の課題や、将来的なリスクを大幅に軽減できるのです。

家族信託の注意点とデメリット

一方で、家族信託を導入する際には、いくつかの注意点とデメリットも存在します。

共有者全員の合意形成

家族信託を設定するには、原則として対象となる不動産の共有者全員の同意が必要です。一人でも反対者がいれば、信託契約を進めることは困難です。特に人間関係がこじれている場合、この合意形成が最大のハードルとなることがあります。

遺留分への配慮

信託契約の内容によっては、特定の受益者に利益が集中し、他の相続人の「遺留分」(法律で保障された最低限の相続分)を侵害する可能性があります。遺留分侵害額請求のトラブルを避けるためにも、遺留分に配慮した設計が重要です。

長期的な拘束

家族信託は、一度契約すると数年から数十年といった長期にわたって継続します。途中で契約内容を変更することも可能ですが、受託者や受益者の状況変化、法改正なども考慮し、慎重に設計する必要があります。

損益通算や繰越控除の制限

信託した不動産から賃貸収入などが発生した場合、受益者が所得税・住民税を支払いますが、不動産事業で赤字が出ても、他の所得との損益通算や翌年への繰越控除ができないなど、税務上の制約がある場合があります。


まとめ

不動産の共有問題は、放っておくと「争族」の火種となり、かけがえのない家族関係まで破壊してしまう可能性があります。家族信託は、こうした問題を未然に防ぎ、あるいは解決へと導くための強力なツールとなり得ます。

当事務所では、お客様一人ひとりの状況を丁寧にヒアリングし、共有不動産問題の解決に向けた最適な家族信託の設計を行います。
「この先どうなるか不安」「共有名義の不動産で困っている」といったお悩みをお持ちの方は、ぜひ一度、当事務所にご相談ください。家族の絆を守り、大切な不動産を未来へと繋ぐお手伝いをさせていただきます。
初回の相談は無料ですので、お気軽にご連絡ください。
詳しくは行政書士わたなべ事務所まで

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