故人の口座凍結②口座凍結前の引き出しリスクを行政書士が解説

相続

こんにちは 行政書士わたなべ事務所の渡辺晋太郎です。

以前、故人の預貯金口座が金融機関によって凍結されること、そしてその理由と手続きについて詳しく解説しました。口座が凍結されると、原則として相続人全員の合意と所定の手続きが完了するまで、一切のお金を引き出せなくなることをご理解いただけたかと思います。

しかし、中には「口座が凍結される前に、少しでもお金を引き出しておけば…」とお考えになる方もいらっしゃるかもしれません。今回は、そのような「口座凍結前の引き出し」について、どのようなリスクがあるのか、また、どのような点に注意すべきなのかを行政書士の視点から解説していきます。


口座凍結前に引き出しができてしまうケース

金融機関が故人の死亡を知るまでは、口座は生きています。そのため、死亡届提出前や、金融機関への連絡がまだの場合には、ATMやインターネットバンキングを通じて、故人の口座からお金を引き出せてしまうことがあります。

故人のキャッシュカードや暗証番号を知っていた場合、あるいはインターネットバンキングのIDとパスワードを把握していた場合などは、実際に引き出しを行うことが物理的に可能です。

「口座凍結前の引き出し」は原則NG!その法的リスクとは

「口座凍結前に引き出しができるから」といって、安易にお金を引き出すことは、絶対にお勧めできません。なぜなら、その行為は、後に大きな法的トラブルに発展する可能性があるからです。

故人の預貯金は、死亡と同時に「相続財産」となります。相続財産は、相続人全員の共有財産であり、遺産分割協議が成立するまでは、勝手に処分したり、一部の相続人が独断で引き出したりすることは許されません。

口座凍結前に引き出しをしてしまうと、以下のような法的リスクに直面する可能性があります。

他の相続人からの追及

引き出した金額が遺産分割の対象から漏れることになり、他の相続人から「なぜ勝手にお金を引き出したのか」「そのお金はどこへ行ったのか」と厳しく追及されることになります。
悪質なケースと判断されれば、横領として訴えられる可能性もゼロではありません。
相続人間での争いが激化し、遺産分割協議が長期化・複雑化する原因となります。

「寄与分」や「特別受益」の問題

もし引き出したお金が、特定の相続人の生活費や、他の相続人が知らない目的のために使われた場合、その引き出し分が「特別受益」とみなされ、最終的な遺産分割の際に、その相続人の取得分から差し引かれることになる可能性があります。
逆に、葬儀費用など、相続人全員にとって必要な支出であれば「寄与分」と認められる可能性もありますが、その場合でも、引き出しの経緯や使途を明確に説明できる証拠を残しておく必要があります。

相続放棄ができなくなる可能性

故人に多額の借金があった場合など、相続放棄を検討している方もいらっしゃるかもしれません。しかし、口座から預貯金を引き出す行為は、「相続財産を処分した」とみなされ、相続を承認したことになってしまう可能性があります。
一度相続を承認してしまうと、後から相続放棄をすることは原則としてできません。これにより、故人の借金まで引き継がなければならなくなるという、取り返しのつかない事態に陥るリスクがあります。

税務上の問題

引き出したお金の使途が不明確な場合、税務調査の際に説明を求められることがあります。場合によっては、贈与税の対象となる可能性や、相続税の申告漏れとみなされるリスクも考えられます。

口座凍結前に「やむを得ず」引き出す場合の注意点

上記のように、口座凍結前の引き出しは原則避けるべきですが、例外的に以下のような緊急かつやむを得ない事情があり、かつ全相続人の合意が得られている場合は、慎重な対応が必要です。

例えば、

  • 葬儀費用の支払い
  • 故人の医療費の清算
  • 当面の生活費(故人と同居していた家族の、急な生活費)

などのケースが考えられます。

これらの場合でも、以下の点に細心の注意を払う必要があります。

  1. 全相続人の同意を得る
    • 最も重要なのは、他の相続人全員の明確な同意を得ることです。口頭だけでなく、書面(署名・捺印入り)で同意を得ておくのが理想です。
    • 同意書には、「誰が、いつ、いくら引き出すのか」「そのお金は何のために使うのか」を具体的に明記しましょう。
  2. 使途を明確にする
    • 引き出したお金は、何に使ったのかを明確に記録し、領収書など証拠となる書類を必ず保管してください。
    • 「葬儀費用として〇〇円」「医療費として〇〇円」など、具体的に記載し、残高が分かるようにしておきましょう。
  3. 金額を必要最小限にする
    • 本当に必要な金額のみを引き出すようにし、過剰な引き出しは避けましょう。
  4. 金融機関への連絡は速やかに
    • やむを得ず引き出した場合でも、金融機関には故人の死亡を速やかに連絡し、相続手続きを進める旨を伝えましょう。後で引き出しの経緯を説明することになるため、誠実な対応が求められます。

「仮払い制度」の活用を検討する

以前もご紹介しましたが、「仮払い制度」は、相続人にとって非常に有効な制度です。

この制度を利用すれば、遺産分割協議が完了していなくても、相続人単独で、故人の預貯金の一部を金融機関から引き出すことができます。引き出せる金額には上限がありますが(各金融機関につき150万円、または故人の預貯金残高の3分の1に、その相続人の法定相続分を乗じた額のいずれか低い額)、葬儀費用や当面の生活費に充てるには十分なケースが多いでしょう。

この制度を利用することで、相続人全員の同意を得る手間や、後のトラブルのリスクを回避できるため、安易な口座凍結前の引き出しを検討する前に、まず「仮払い制度」の利用を検討されることを強くお勧めします。


まとめ

「口座凍結前の引き出し」は、一見すると便利に見えるかもしれませんが、法的リスクを伴う危険な行為です。他の相続人との無用なトラブルを招き、最悪の場合、相続放棄ができなくなるなど、取り返しのつかない事態に発展する可能性もあります。

ご家族が亡くなられた際、故人の財産をどのように扱えば良いのか、不安や疑問を感じることは当然です。特に、預貯金に関しては、葬儀費用などで急を要する場合もあるでしょう。

もし、少しでも不安を感じる場合には、ご相談ください。当事務所では、

  • 相続人調査(戸籍収集)
  • 遺産分割協議書の作成支援
  • 預貯金口座の解約・名義変更手続き

など、相続手続きのサポートを行っております。
また、口座凍結対策として有効な家族信託を組成するサポートも行っております。

相続を「争続」にしないためにも、適切な知識と手続きで、故人の財産を円満に引き継いでいきましょう。
初回の相談は無料ですので、お気軽にご連絡ください。
詳しくは行政書士わたなべ事務所まで

タイトルとURLをコピーしました