こんにちは、行政書士わたなべ事務所の渡辺晋太郎です。
今回は、家族信託についてのお話です。
厚労省は2040年に高齢者の約3割が認知機能の低下が見られる「認知症」と「軽度認知障害」になるという予測結果を2024年に発表しました。(厚生労働省作成:認知症および軽度認知障害(MCI)の高齢者数と有病率の将来推計より)
高齢化が進むにつれて、認知症は誰にとっても身近な問題となってきています。「もしかしたら親が…」「将来、自分が…」そんな不安を抱えている方も少なくないのではないでしょうか。
そんな中、注目されているのが「家族信託」という制度です。家族信託は、大切な家族の財産を守り、認知症になった後の生活を支えるための有効な手段の一つです。
とはいえ、まだまだ「家族信託って何?」とよく聞かれます。
そこで、認知症対策としての家族信託の基本から、メリット・デメリットなど解説します。最後まで読めば、家族信託があなたの家族にとってどのような選択肢となり得るのか、具体的なイメージを持つことができるでしょう。
認知症になると何が困る?財産管理の不安
認知症が進行すると、日常生活における様々な意思能力が低下します。これは、財産管理においても例外ではありません。症状が進み、意思能力がないと判断されると、以下のような困りごとが生じます。
- 預貯金の引き出しが困難に
口座が凍結されて、一切の取引ができなくなります。 - 不動産の売却・管理が困難に
不動産の修繕、売却の手続きができなくなります。 - 遺産分割協議に参加できません
認知症の程度によっては、代わりに後見人を選任する必要があります。
これらの問題は、ご自身だけでなく、残された家族にとっても大きな負担となります。もし、認知症の症状が進み、ご自身の預貯金口座が凍結されると家族であってもお金を引き出すことができなくなりますので、それ以降の介護費用含めた生活費をご自身以外の誰かが負担しなければなりません。実家を売却して介護施設への入居費用にしようと考えていたとしても、それもできなくなります。
家族信託とは?認知症対策としての仕組み
そこで、ご紹介するのが「家族信託」です。家族信託とは、ご自身の財産管理を家族などの信頼できる人に任せる仕組みのことです。家族信託の仕組みを利用すれば、自分の意思を反映した財産の管理を行うことができます。
家族信託における登場人物
委託者・・・財産管理を任せる人(例:親)
受託者・・・財産管理を任された人(例:子ども)
受益者・・・財産権があり、財産から利益を得る人(例:親)
認知症対策として家族信託を活用する場合、一般的には親が委託者兼受益者となり、子供などの信頼できる家族が受託者となります。親が元気なうちに家族信託契約を結んでおくことで、将来、親が認知症になったとしても、受託者である子供が管理を任された財産(信託財産)から親の生活費や医療費などを必要な資金を工面することができます。
家族信託が認知症対策に有効な理由
家族信託が認知症対策として有効な理由は、主に以下の点が挙げられます。
財産凍結を回避できる
親が認知症になっても、受託者である子供が引き続き財産の管理・処分を行うことができるため、財産が凍結される心配がありません。
柔軟な財産管理・運用ができる
信託契約の内容に基づき、親の生活状況や意向に合わせて柔軟に財産を管理・運用することができます。
後見制度の利用を回避できる
後見人を選任すれば、本人に代わり財産管理が可能ですが、必ずしも家族の意向通りになるとは限りません。選任までの煩雑な手続きや報酬の支払いも発生しません。
遺言機能があり、スムーズな財産承継ができる
亡くなった後の財産の承継先や方法を事前に決めておくことができ、遺産分割協議の負担を軽減することができます。
家族信託を検討する際の注意点
認知症対策に有効な家族信託の仕組みですが、万能な制度ではありません。利用を検討する際に注意が必要な点を見ていきましょう。
受託者の負担が大きい
受託者は委託者から託された財産を管理・処分する重要な役割を担い、信託法や信託契約に基づいて様々な義務を負います。これらの義務を適切に履行することで、受益者の利益を守り、信託の目的を達成することが求められます。
受託者の主な義務は以下の通りです。
- 善管注意義務(信託法第29条)
善管注意義務とは、民法第400条にある「善良なる管理者の注意義務」のことをいいます。自分の財産を管理するのと同じ程度の注意ではなく、より高い注意義務が求められます。具体的には、信託財産の価値を維持・向上させるために、適切な管理を行い、無駄な支出を避けるなどが含まれます。 - 忠実義務(信託法第30条)
法令および信託の目的に従って、受益者の利益のために忠実に信託事務を行う義務を負います。自己の利益を図ったり、受益者の利益を損なうような行為は禁じられています。 - 分別管理義務(信託法第34条)
信託財産と受託者自身の財産、そして他の信託契約における信託財産とを明確に区別して管理しなければなりません。 - 帳簿等の作成・報告・保存義務(信託法第37条、第38条)
信託財産に関する収支や管理状況を明らかにするため、帳簿や財産目録などの書類を作成し、適切に保存しなければなりません。また、受益者に対して、定期的にまたは受益者の請求に応じて、信託事務の処理状況や信託財産の状況を報告する義務があります。
以上が特に受託者の責任と負担が大きいものです。ですので、受託者に報酬を支払ったり、受託者を監督する信託監督人を設定することもできます。
家族全員の理解と協力が不可欠
家族信託は委託者と受託者が契約に合意すれば成立します。信託期間は長期にわたることもありますし、特定の一人が財産を管理することになるので、「私は何も聞いてないけれど。。」など委託者と受託者以外の家族の不信感を生むことにもなりかねません。
そうならないためにも、委託者と受託者以外の家族を含めて、信託内容をしっかり話し合い、納得の上で家族信託を開始することが重要です。
受託者に身上監護の権限はない
家族信託はあくまで財産の管理を目的としていますので、意思能力が不十分になった委託者の生活、医療や介護などに関する法律行為(身上監護)を受託者が代わりに行うことはできません。
具体的には、
- 介護・福祉施設の入所契約
- 医療機関への入院の手続きや治療に関する同意
- 生活に必要なサービスの契約(住居の確保など)
などです。これらは後見人を選任する必要があります。
家族信託と後見制度を併用すれば、財産管理については家族信託で財産の管理を行いながら、認知症になった際の法律行為に関する代理権も与えられ、より万全な認知症対策が可能です。(後見制度については後日触れたいと思います。)
まとめ
認知症は、誰にとっても他人事ではありません。大切な家族が安心して暮らせるように、早めの対策を講じることが重要です。家族信託は、認知症による財産凍結を防ぎ、柔軟な財産管理とスムーズな承継を実現するための有効な選択肢の一つです。
この記事を読んで、家族信託についてもう少し詳しく聞いてみたいと思った方は、ご連絡いただければ家族信託専門士である行政書士がお話をお伺いします。
初回の相談は無料ですので、お気軽にご連絡ください。
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