こんにちは 行政書士わたなべ事務所の渡辺晋太郎です。
老後の生活の不安や、ご家族の将来の円満な資産承継を考えたとき、「家族信託」と「生前贈与」という二つの言葉を目にされる方は多いのではないでしょうか。どちらも生前に財産を次の世代に引き継ぐための手段ですが、その目的、機能、そして税金の扱いには決定的な違いがあります。
これらの違いを正しく理解することが、ご家族の状況に最適な対策を選ぶための第一歩となります。
家族信託と生前贈与の根本的な違い
①家族信託:財産の「管理・処分権限」を託す制度
家族信託とは、ご自身の財産を信頼できるご家族(受託者)に託し、ご自身(受益者)のためにその財産の管理・運用・処分をしてもらう仕組みです。
- 何が移るか(法的な効果)
財産の名義(所有権)が、管理のために受託者へ移ります。しかし、財産から生じる利益を受ける権利(受益権)は、原則として委託者(財産を託した方)に残ります。 - 最大の目的
認知症による「資産凍結」を予防することです。万が一、財産所有者(親御さんなど)の判断能力が低下しても、受託者であるご家族が契約に基づいて不動産の売却や預金の引き出し、積極的な運用など、柔軟な財産管理・処分を継続できます。 - 税金の扱い(契約時)
受益権は委託者本人に残るため、実質的な財産の移動はないとみなされ、原則として贈与税はかかりません。不動産取得税も非課税、登録免許税も軽減税率(0.4%)が適用されます。
②生前贈与:財産の「所有権」そのものを渡す行為
生前贈与とは、ご自身が生きているうちに、ご自身の財産を相手に無償で譲り渡し、相手がそれを受け取るという契約行為です。
- 何が移るか(法的な効果)
財産の所有権そのものが、贈与者から受贈者へ完全に移転します。一度贈与が完了すると、原則として贈与者はその財産に対して法的な権限を失います。 - 最大の目的
相続税対策です。生前に財産を減らしておくことで、将来の相続財産を減らし、相続税の負担軽減を目指します。また、ご自身の意思で「誰に」「何を」渡すかを確実に実現できます。 - 税金の扱い(契約時)
財産の所有権が完全に移転するため、原則として財産を受け取った側(受贈者)に贈与税が課税されます(暦年贈与の基礎控除110万円など、各種非課税枠の活用が重要になります)。
徹底比較:家族信託 vs 生前贈与
| ポイント | 家族信託 | 生前贈与 |
| 主な目的 | 認知症対策、財産の柔軟な管理継続、二次相続以降の指定 | 相続税の節税、財産の早期・確実な承継 |
| 財産の移転 | 管理・処分権限の移転(所有権の名義変更のみ) | 所有権そのものの完全な移転 |
| 財産の利用 | 委託者(親)が引き続き利益を利用できる(受益者として) | 財産は受贈者(子・孫など)のものとなり、贈与者は利用権限を失う |
| 契約時の課税 | 原則、贈与税は非課税 | 原則、贈与税が課税される(非課税枠あり) |
| 将来の相続税 | 委託者の死亡時に相続税の課税対象となる(評価額の変動効果はあり) | 財産は相続財産から除外され、相続税が節税される(持ち戻し規定に注意) |
どちらを選択すべきか?
ご家族の状況や目的によって、最適な対策は異なります。
家族信託が向いているケース
- 認知症対策を最優先したい方。
- アパートや駐車場などの収益不動産を持っており、賃貸経営を継続したい方。
- 財産の名義は変えるが、財産から得られる収益は老後の生活費として確保しておきたい方。
- 二次相続(例えば、配偶者の死亡後、その財産を誰に渡すか)まで指定したい方。
生前贈与が向いているケース
- 相続税の課税リスクが高いため、節税を最優先したい方。
- 暦年贈与の基礎控除(110万円)などを活用し、計画的に長期間かけて少しずつ財産を移転したい方。
- 子や孫に結婚資金や教育資金を援助したい方(非課税特例の活用)。
- 老後資金に十分な余裕があり、手元に残す財産を心配する必要がない方。
まとめ
家族信託も生前贈与も、ご家族の幸せな将来のために有効な手段ですが、一度手続きを始めると元に戻すのは非常に困難です。特に家族信託は、複雑な権利関係を設定するため、契約書作成や登記手続きにおいて専門的な知識が不可欠です。
当事務所では、ご家族構成や財産状況、そしてお客様の「何を一番実現したいか」という想いを丁寧にヒアリングした上で、家族信託、生前贈与、あるいは遺言といった他の制度も含め、最適なプランをご提案いたします。
初回の相談は無料ですので、お気軽にご連絡ください。
詳しくは行政書士わたなべ事務所


