こんにちは 行政書士わたなべ事務所の渡辺晋太郎です。
今回は、家族信託でできる資産承継についてです。
先祖から代々受け継がれてきた土地は、単なる不動産以上の意味を持つ、家族の歴史と絆の象徴です。「この土地だけは、血のつながった子孫に守り伝えていきたい」――そう願う方は少なくありません。しかし、通常の相続や遺言だけでは、その願いが将来にわたって確実に実現されるか、不安が残ることも事実です。
そこで解決策となるのが、「家族信託」です。特に、複数世代にわたる承継を可能にする「受益者連続型信託」は、先祖代々の土地を直系の子孫に継がせるという目的を達成するための強力なツールとなります。
なぜ通常の相続や遺言では難しいのか?
一般的な相続や遺言では、以下のような課題があります。
遺言の限界
遺言で指定できるのは、原則として次の相続(つまり、ご自身の相続)における承継先までです。「私が亡くなったら子に、子が亡くなったら孫に」といった複数世代にわたる指定は、遺言書単独ではできません。子が亡くなった際には、その子の遺言や相続によって、土地の行方が決まってしまいます。
また自分が先に亡くなった場合は、配偶者にも相続権がありますので、直系の子孫以外に土地などの財産が承継される可能性もあります。
相続の都度の手間とリスク
世代が変わるごとに相続手続き(遺産分割協議、相続登記など)が必要です。その都度、相続人の範囲が広がり、複雑化したり、相続人同士の意見の相違から争いが生じたりするリスクがあります。
認知症リスク
相続人の中に認知症を発症する人が現れると、その後の手続きが滞り、土地の管理や売却が困難になる「凍結」状態に陥るリスクもあります。
家族信託が直系承継を可能にする理由
家族信託、特に受益者連続型信託は、これらの課題を解決し、先祖代々の土地を直系の子孫に永続的に継がせることを可能にします。
そのポイントは、以下の通りです。
複数世代にわたる受益者の連続指定
信託契約において、「最初の受益者は自分、次に子が、その次に孫が、さらにその次にひ孫が…」というように、受益権(土地から得られる利益や使用権)を承継する順番を具体的に、かつ複数世代にわたって指定できます。これにより、各世代で改めて遺産分割協議を行うことなく、信託契約に定められた通りに土地の受益権が移っていきます。
- 委託者:土地などの財産所有者(あなた)
- 受託者:信頼できる家族(子など、土地などの財産管理者)
- 当初受益者:利益を最初に享受する人(あなた自身)
- 第2受益者:あなたの死亡後に利益を享受する人(直系の子など)
- 第3受益者:第2受益者の死亡後に利益を享受する人(第2受益者の子など)
このように、あらかじめ直系の子孫へと続く承継ルートを信託契約で「予約」しておくことができます。
ただし、受益者連続型信託は期間に制限があり、永久に続けることはできません。第2第3受益者の考えを無視することにもなりますので、ご自身の想いを何代にも渡って指定するのは慎重になった方がいいかもしれません。
「所有権」と「受益権」の分離
信託を設定すると、土地の「所有権」は受託者に移ります。しかし、土地から得られる利益(例えば、賃料収入や、居住権としての使用価値)を受け取る権利である「受益権」は、信託契約で指定された受益者が持ち続けます。これにより、直系の子孫が土地の恩恵を受け続けることが可能になります。
認知症対策と管理の継続性
委託者や受益者が認知症などで判断能力を喪失した場合でも、受託者が信託契約に基づいて土地の管理・運用を継続できます。これにより、土地が「凍結」することなく、固定資産税の支払い、修繕、賃貸管理などが滞りなく行われ、将来の直系承継に悪影響が出ることを防ぎます。
遺産分割協議不要による争い回避
土地の承継先が信託契約で明確に定められているため、各世代で相続が発生するたびに、土地を巡る遺産分割協議を行う必要がなくなります。これにより、親族間の無用な争いを未然に防ぎ、家族の絆を守ることができます。
しかし、上述の通り、あなた以降の受益者の想いは相続時に反映されないことになりますので、注意が必要です。
具体的な信託設計のポイント
先祖代々の土地を直系に継がせるための家族信託を設計する際には、以下の点を明確にすることが重要です。
- 誰を受託者にするか
最も信頼でき、責任感があり、長期にわたって土地の管理を任せられる直系の子孫(例えば、長男や長女)を選びましょう。受託者が複数いる場合は、意思決定の方法も定めます。 - 受益者の指定
具体的にどの直系の子孫に、どのような順序で受益権を承継させるかを明確にします。例えば、「子→孫→ひ孫」という形で指定します。 - 信託の終了時期
受益者連続型信託は永久に続けることはできません。信託法第91条により、信託がされたときから30年を経過後に新たに受益権を取得した受益者が死亡するまで又は当該受益権が消滅するまでとされています。つまり、30年を経過した後は、受益権の新たな承継は一度しか認められません。
そのため、何代先まで承継させるのか、あるいは「最後の受益者が死亡した時」など、信託を終了させる条件を明確に定めておく必要があります。 - 土地の管理方法
誰がどのような形で土地を利用・管理するのか(居住するのか、賃貸に出すのか、売却は絶対しないのかなど)、受託者の権限と義務を詳細に定めます。 - 信託財産の内容
土地だけでなく、土地にかかる固定資産税や管理費用を賄うための預貯金なども信託財産に含めることで、受託者の負担を軽減し、より安定的な管理が可能になります。
まとめ
先祖代々の土地を直系の子孫に確実に継がせたいという願いは、多くの日本人にとってかけがえのないものです。家族信託(受益者連続型信託)は、この崇高な願いを実現するための、現代における最も有効な方法の一つです。
複雑な相続手続きや将来のトラブルを避け、大切な土地が、ご自身の思い描く通りに未来へと受け継がれていく道を築くために、ご不明な点などございましたら、ぜひ一度ご相談ください。家族信託専門士である行政書士がみなさまの不安を安心に変えるお手伝いをさせていただきます。
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