知っておけば避けられる!行政書士が語る相続トラブル事例

相続

こんにちは 行政書士わたなべ事務所の渡辺晋太郎です。

相続は、誰もが一度は経験する人生の大きな節目です。しかし、「うちは大丈夫」と思っていても、お金が絡むと感情的になりやすく、思わぬトラブルに発展するケースが少なくありません。
亡くなった後の話をするのは家族間でも切り出しにくいですが、残された人が争うことは誰も望まないことだと思います。​相続が「争族」にならないために、あらかじめ親族間で話し合い、対策をしておくことが重要です。

そこで、今回はよくある相続トラブルの事例と、それを未然に防ぐためのポイントをご紹介します。


なぜ相続トラブルは起こるのか?

相続トラブルの原因は多岐にわたりますが、主なものは以下の通りです。

  • 遺言書がない、または内容が不明確
    故人の意思が不明確だと、相続人それぞれの解釈が異なり、争いの火種となります。
  • 財産内容が把握されていない
    どこに、どれくらいの財産があるのかが不明確だと、隠し財産や使い込みの疑念が生じ、不信感につながります。
  • 感情的なしこり
    生前の親族関係や、介護の負担などが相続に影響し、感情的な対立が深まることがあります。
  • 相続人間の情報格差
    特定の一部の相続人だけが財産状況を把握し、他の相続人が蚊帳の外に置かれることで、不公平感が生じます。
  • 専門知識の不足
    相続に関する法律や手続きは複雑で、知識がないまま進めようとすると、思わぬ落とし穴にはまることがあります。

相続でよくあるトラブル事例

遺言書がない場合の「言った、言わない」

故人が遺言書を残していなかった場合、相続人全員で遺産分割協議を行い、誰がどの財産を相続するかを決めなければなりません。

  • 背景
    故人が生前に「長男に家を継いでほしい」「長女には預貯金を多く残したい」などと口頭で話していても、法的な効力はありません。いざ相続となると、他の相続人がその内容を認めなかったり、「自分は聞いていない」と主張したりすることがよくあります。特に、不動産など分けにくい財産がある場合にトラブルになりやすいです。
  • 具体的な事例
    故人の自宅は長男夫婦と同居していたため、長男は「自分が家を相続する」と思っていた。しかし、遠方に住む次男と長女は「私たちも法定相続分はもらう権利がある」と主張し、自宅の売却を求める。長男は住む場所を失うことになるため、話し合いはまとまらず、感情的な対立に発展してしまいました。

特定の相続人への「生前贈与」や「寄与」を巡る対立

特定の相続人が、被相続人の生前に多額の援助を受けていたり、介護などで特別な貢献をしていたりする場合に起こりやすいトラブルです。

  • 背景
    • 特別受益:特定の相続人が生前に住宅購入資金や開業資金など、多額の贈与を受けていた場合、他の相続人は「それは生前の分け前だから、その分は遺産から差し引かれるべきだ」と主張することがあります。
    • 寄与分:長年、被相続人の介護や事業の手伝いを無償で行ってきた相続人が、「自分は他の相続人よりも多く貢献したのだから、その分多く遺産をもらうべきだ」と主張するケースです。
  • 具体的な事例
    長男が親の会社を継ぎ、その際に親から多額の資金援助を受けていた。親の死後、他の兄弟は「あれは特別受益だから、長男の相続分を減らすべきだ」と主張。一方、長女は長年親の介護をしていたため、「自分には寄与分があるはずだ」と主張し、それぞれの言い分がぶつかり、遺産分割協議が進まなくなってしまいました。

不動産の共有名義による問題

故人の唯一の財産が不動産で、それを複数の相続人で共有名義にした場合に起こるトラブルです。

  • 背景
    遺産分割協議で合意に至らず、とりあえず法定相続分の割合で共有名義にしてしまうケースや、兄弟姉妹間で「いずれは売却するから」と安易に共有にしてしまうケースがあります。しかし、共有名義の不動産は、売却や大規模なリフォームなどをする際に、共有者全員の同意が必要となります。
  • 具体的な事例
    実家を兄弟3人で共有名義で相続したが、長男がその家に住み続けています。固定資産税や修繕費は長男が負担しているものの、他の兄弟は「いつか売却して現金にしたい」と考えています。しかし、長男は「住み慣れた家を離れたくない」と売却に応じず、他の兄弟との間で不満が募り、関係が悪化してしまいました。
    共有名義のまま世代が進むと、共有者がさらに増え、関係性が希薄になるため、将来的な売却や管理が極めて困難になる可能性があります。さらに、共有者の一人が認知症になったり、行方不明になったりすると、その不動産は実質的に身動きが取れなくなることもあります。

不動産は、現金や預貯金とは異なり、その評価や分割が難しいため、相続トラブルの大きな火種となりやすい財産です。特に、日本の相続財産に占める不動産の割合が高いことが多く、公平に相続財産を分けることができないため、それがさらに問題を複雑にする要因となっています。

  • 背景
    故人である親の自宅に長男夫婦が同居し、介護なども行っていて、他の兄弟姉妹は遠方に住んでおり、親の世話は長男任せでした。相続財産は自宅の不動産がほとんどで、現金が多くありません。
  • 具体的な事例
    長男:「親の面倒を見てきたのだから、当然この家は私が相続するべきだ。これからも住み続けたいし、介護の貢献も認めてほしい(寄与分の主張)。」
    次男・長女:「私たちにも法定相続分がある。現金がないなら、家を売却して公平に分割してほしい。長男だけが家に住み続けるのは不公平だ。介護は家族として当然のことで、寄与分を認めるほどの特別な貢献ではない。」
    話し合いは決裂し、家庭裁判所の遺産分割調停に発展しました。長男は自宅を手放したくありませんが、代償金を支払う現金がなく、自宅を売却せざるを得ない状況に追い込まれる可能性も出てきます。

相続人の中に「行方不明者」や「認知症の親族」がいる

相続人の中に連絡が取れない人や、判断能力が低下している人がいる場合、遺産分割協議を進めることが困難になります。

  • 背景
    • 行方不明者:長年音信不通だった兄弟や、幼い頃に離れた親族が相続人となる場合があります。連絡先が不明な場合、戸籍をたどって調査をしたり、不在者財産管理人の選任を申し立てる必要があり、時間と費用がかかります。
    • 認知症の親族:故人の配偶者や兄弟など、相続人の中に認知症で判断能力が低下している方がいる場合、その方が遺産分割協議に参加することはできません。この場合、家庭裁判所に成年後見人の選任を申し立てる必要があります。
  • 具体的な事例
    故人の配偶者が認知症を患っており、自分で遺産分割協議に参加できる状態ではありませんでした。子が勝手に遺産分割協議を進めようとしましたが、後になって他の親族から「それは無効だ」と異議を唱えられ、結局、成年後見人の選任を申し立て、全ての手続きをやり直すことになってしまいました。

遺産分割協議に参加しない

遺産分割協議は、相続人全員の協力が不可欠で、一人でも協議に参加しない相続人がいるとその遺産分割協議は無効となります。その結果、手続きが滞り、深刻なトラブルに発展することが少なくありません。遺産相続の話し合いを進める中で、相続人同士で話し合いの折り合いがつかず、感情的になってしまうケースは多くあります。

感情的な対立からの協議拒否(連絡無視・居留守など)

  • 背景: 故人の生前から特定の相続人(例: 介護を担った長男と、ほとんど関わらなかった次男)との間に感情的なしこりがありました。または、遺産の使い込みや不公平な扱いがあったと他の相続人が疑っています。
  • 具体的な事例
    • 事例A(連絡無視): 兄が親の介護を長年行ってきたが、弟はほとんど関わりませんでした。親の死後、兄が遺産分割協議を持ちかけると、弟は「兄が親の財産を勝手に管理していたので信用できない」「どうせたいした財産もないだろう」などと言い、兄からの連絡を一切無視します。遺産分割協議の案内を送っても、受取拒否や居留守で応答がなく、協議が進みません。
    • 事例B(財産開示への不信): 亡くなった親と同居していた長女が、他の兄弟に親の銀行口座の履歴や不動産登記に関する情報提供を渋ります。他の兄弟は「何か隠しているのではないか」「財産を使い込んでいるのではないか」と不信感を抱き、長女が提案する遺産分割協議への参加を拒否します。

遺産分割の内容に不満があり、参加を拒否する

  • 背景
    他の相続人が提示した遺産分割案に納得できない、自身の貢献が評価されていないと感じる、あるいは不公平な扱いを受けていると感じています。
  • 具体的な事例
    親の事業を手伝っていた長男が、その貢献を寄与分として相続分に上乗せするよう主張しましたが、他の兄弟は「それは長男の義務であり、特別な貢献ではない」と反発し、長男の提案を受け入れず、協議への参加を拒否しています。

音信不通・行方不明の相続人がいる

  • 背景
    長年、家族と連絡を取っていなかった相続人がいる。もしくは、転居を繰り返し、連絡先が不明です。
  • 具体的な事例
    亡くなった父には、若い頃に家を出て以来、音信不通の弟(叔父)がいました。父の死亡後、その弟も相続人となるため、連絡を取る必要がありますが、住所も電話番号も不明です。戸籍をたどって調査を試みるも、転居先が分かりませんが、この弟が参加しない限り、遺産分割協議は成立しないため、手続きが完全にストップしてしまいました。

どんなに頑張っても無視されてしまう場合は、遺産分割調停を申立てる必要が出てきます。

相続トラブルがもたらす影響

これらの事例が放置されると、以下のような深刻な影響が生じます。

  • 相続手続きが進まない
    預貯金の引き出し、不動産の名義変更、有価証券の解約など、相続に関する一切の手続きがストップします。
  • 相続税の特例適用されない
    遺産分割が完了しないと、「小規模宅地等の特例」や「配偶者の税額軽減」などの相続税の優遇措置が受けられない可能性があり、余計な税金を支払うことになります。
  • 罰則・税金の増加
    相続税の申告期限(10ヶ月以内)を過ぎると、延滞税や加算税といったペナルティが課される可能性があります。不動産登記の義務化(2024年4月1日施行)により、正当な理由なく相続登記をしないと過料が科される可能性もあります。
  • 財産の毀損・使い込みリスク
    協議が滞る間に、財産が適切に管理されず老朽化が進んだり、一部の相続人が勝手に財産を使い込んだりするリスクが高まります。
  • 二次相続による複雑化
    遺産分割協議がまとまらないうちに、別の相続人が亡くなると、さらに相続人が増え、権利関係が複雑になり、解決が極めて困難になります。

相続トラブルを未然に防ぐために

これらの事例からわかるように、相続トラブルの多くは、生前の準備と適切な情報共有によって回避できる可能性があります。

  • 遺言書は必ず作成
    故人の最終意思を示す遺言書は、相続トラブルを防ぐ最も効果的な手段です。特に、複雑な家族関係や、特定の財産を特定の相続人に残したい場合は、遺言書の作成を強くおすすめします。
  • 財産目録を作成し、内容を共有
    預貯金、不動産、株式、保険、借金など、全ての財産をリストアップした財産目録を作成し、家族で共有しておくことで、相続発生時の混乱を防ぎ、不信感を生じさせないようにできます。
  • 家族間のコミュニケーションを密に
    生前から相続についてオープンに話し合い、お互いの希望や考えを理解しておくことが大切です。話し合いの中で、感情的なしこりがある場合は、早めに解決に向けて努力することも重要です。

まとめ

相続は、残された家族にとって大切な故人を偲び、絆を深める機会でもあります。しかし、適切な準備を怠ると、予期せぬトラブルによって家族関係に深い亀裂が入ってしまうこともあります。ぜひ、このブログを参考に、早めの準備を始めてみてください。

相続トラブルを回避するには遺言書を作成することをおすすめします。当事務所では、遺言書の作成に関するご相談を随時受け付けております。お客様一人ひとりの状況に寄り添い、最適な遺言書作成をサポートさせていただきますので、どうぞお気軽にご相談ください。
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